老化と口内環境

「サルコペニア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

サルコペニアとは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を言います。
また、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指します。

筋肉量が減れば動きが悪くなるだろうなということは、なんとなく想像できるかと思います。
では、筋肉量が減ってしまう原因は何でしょうか?

筋肉はタンパク質で出来ています。
肉、魚、大豆、乳製品などから摂取できますが、効率が良いのは、肉を食べること。
ところが、高齢になるとタンパク質の吸収率が悪くなるため、若い人より一割ぐらい多く摂らないとならないと、言われています。

でも、よく耳にするのが「年を取ると肉よりあっさりしたもののほうがいいのよね」と、肉類を敬遠する傾向が見られます。

あっさりしたものを好むようになるだけでなく、歯の状態が悪くなっていることも一因では?と、私は考えます。

歯が無かったり、噛みあわせが悪かったりしたら、固いものや噛み切らなければならないものを避けるようになります。
肉類だけでなく、野菜類も咀嚼に時間がかかるため食べなくなります。

そういう場合に食べるのは、ご飯やパンなどの炭水化物が多くなってしまいます。

炭水化物は、摂りすぎると脂肪として体内に蓄積されます。
炭水化物は、糖類なので、摂りすぎれば血糖値も上がりやすくなります。
血糖値、脂肪とくれば、生活習慣病を想像するのは簡単です。

体の状態が良くない上に、タンパク質が足りず、筋肉量が減ってしまえば、身体はますます動かなくなり、介護が必要な状態に陥るのは目に見えています。

日本は世界一の長寿国ですが、自分で自分のことが出来る健康寿命(健康余命ともいいます)は、平均寿命よりも、10歳以上離れています。
つまり、誰かの手を借りないと生活が出来ない時間が10年以上あるということです。

ですから、正確に言えば、日本は世界一の長寿国であると同時に、介護が必要な期間も世界一長い、ということなのですね。

介護は受ける側だけの問題ではありません。介護をする側である現役世代が、介護とと仕事の両立が難しくなった場合、仕事を辞めることを選択する場合があります。
介護離職者は年間10万人を超えています。
介護は何年するのか、予測がつきません。介護をする人が仕事を辞めていた期間が長いほど、復職は難しくなります。
働く人が減れば、国の税収も減ってしまいますよね。

個人の口内環境の問題が、その人の筋力低下、介護問題そしてなんと、国の問題にまで発展してしまいました!

当クリニックでは患者さんの治療が終わったときに、歯や口の状態を一緒に確認してもらいながら、患者さんいこんな話をします。

「歯が無かったり噛みあわせが悪かったりしたら、お肉や野菜を食べられますか?」
「お肉を食べられなくて、タンパク質をとれなくなり筋肉量が減ったら動けなくなり、そうなると、介護状態に陥ります」
「介護してくれる家族が会社を辞めなければならなくなることもあります。食べられなくなって介護が必要になった人だけの問題ではないのです」
「介護状態にならないために、まずは歯の状態が悪くならないようにしましょう。お肉は前歯で噛み切ります。野菜は奥歯で咀嚼します。歯が無くなったら、お肉も野菜も噛めません。歯を保つために、定期検診を受けるようにしましょう」

みなさんも、定期検診に行って、自分の歯を保ちましょう。
歯があること、ちゃんと噛めることが、貴方の健康や生活の向上だけでなく、貴方の周りの人のためにもなるのですから。

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